リプロイベント・追加レポート

 「性のことで傷つくことのない未来に向かって〜性虐待と若齢妊娠から考えるリプロダクティブ・ヘルス/ライツ〜」(2005年2月27日、於福島県男女共生センター)のレポートの追加。(id:june_t:20050227#p2に簡単な報告を載せています。)

 パネリストの一人、野口まゆみさん(西口クリニック婦人科院長)の出してくれた資料の中に、全国の産婦人科で行なった「10代の人工妊娠中絶についてのアンケート調査」のデータがあった。各都道府県の産婦人科からピックアップされた病院の窓口で来院者にアンケートへの協力を求めたもの。10代の女性626人が回答している。年齢は14歳から19歳まで、全国では19歳が一番多い。なお西口クリニック(JR福島駅の西口近くにある)での回答者は58人。細かい数字はなくグラフだけだが、大まかな傾向はこれでもつかめる。
 「避妊はしていますか」の質問に対し、「ほとんどしていない」が30%強、「ときどき避妊している」が56%程度、「常に避妊している」は10%ちょっと、という数字であった。妊娠したかもということで来院している女性が対象者なので、避妊の遂行率は高いとは言えない結果になっているのは当然かも知れない。
 さらに、「今回の妊娠時の避妊は」という質問に対しては、「相手がコンドームをつけなかった」という回答が一番多く、3割を占めている。西口クリニック来院者では4割を超えた。
 2月27日のエントリ中では、「避妊への(いい意味か悪い意味かは場合によるのかも知れないが)関心の低さ」と書いたが、「誰が関心を持っていないのか」を書き落とした。おそらくこの調査の結果から言えるのは、男性の側の関心は相当低いのではないか、ということだ。
 現在、医療技術の高度化によって、人工妊娠中絶はほぼ安全に施術ができるとのこと。後遺症もほとんどないそうだ。そうとはいえ、一定期間女性の身体に負担をかけることは間違いないし、また、そのときは特段何も感じなくても、のちのち精神的に影響が出てくることもあるという。
 こうした実状を踏まえて、沼崎一郎さんなどは、「避妊しないセックスは性暴力である」*1とさえ主張する。避妊だけでなくSTDまで含めて考えたほうがいいかも知れない。
 いずれにせよ調査結果とあわせたときにいえることは、まず一つ、「暴力」(という言葉が好みでないなら、「セックスの相手の身体・精神に対する侵襲の可能性」と言い換えてもいい)をふるう側が、概して自己の行為の引き起こす結果に関して無自覚となっている、ということだ。これはDVについても指摘されていることである。
 もう一つは、女性の側がやはり男性に対して避妊を要求できていない、ということも報告で指摘された。「相手がコンドームをつけなかった」という回答が多いという結果を紹介したが、妊娠するかもしれないのになぜ避妊を相手に求められないのか(あるいは女性自らができる避妊手段をとっていないか)、ということももちろんある。なにより妊娠するのは自分自身なのであるから。
 梅宮智代さん(男女共生センター研究員)からこの点に関連して、女性の工場労働者は抑うつ状態とストレスを関連づけることができない、という調査報告がされていた。つまりきちんと自分のおかれた状況を言語化できない、コミュニケーション能力が身についていないということなのだが、先の避妊の問題と関連させて、女性はどうもこの問題についてセックス・パートナーときちんとコミュニケーションすることができていないのでは、ということが述べられていた。あまりうまく関連づけられていなかったし、論証は若干「?」だったが、言いたいことはわかった。*2
 もちろん、コミュニケーションは相互的な問題だから、女性の側だけに責任があるとは必ずしも言えない。男性の側の責任でもある。(たとえばそういう話をしたがらなかったり。)しかし、女性の性行動がより活発に、能動的になっているのに比して、なぜ避妊についてだけこれほどまでに「積極的」でないのか。そういう「文化」的土壌があるのではないか、ということが問題として提起されていたと思う。

 (いったん切ります。)

*1:沼崎一郎、「〈孕ませる性〉の自己責任」、『インパクション』vol.105、1997年。なお関連して、宮地尚子、「孕ませる性と孕む性:避妊責任の実体化の可能性を探る」、『現代文明学研究』vol.1、1998年、も参照。沼崎論文は以前はネットにあったが、現在では削除されているもよう。宮地論文は以下で読める。http://www.kinokopress.com/civil/0102.htm

*2:というか、調査についての報告を以前一度聞いているので、何を言いたいかはだいたい想像がついた。