お仕事:加藤秀一ほか、『図解雑学ジェンダー』をながめる

ジェンダー (図解雑学)

ジェンダー (図解雑学)

 Amazonでは書名が「ジェンダー」になっているみたいだけど。*1
 ぺらぺらめくっています。内容を読むというよりは、何が書かれているか、どう書かれているかを追っているという感じ。
 いわゆる「テキスト」「入門書」ではなく、それこそ気軽な「雑学」のためのシリーズ本ということで、独特のスタイルが採用されています。つまり提供する情報(データおよび知識)は、できるだけ多く、新しく、正確(かつ的確)なものであるべきなのだけど、同時に、

  • 見開き2ページに1項目をまとめる。(スリム化)
  • 2色刷、イラスト、図示の多用。(視覚化)
  • ポップカルチャーからの引用や身近な事例の提示。(親近化)

などの工夫がされているということ。特に3番目とかの工夫は、加藤さん(だけが書いているわけではないけど)上手だよね。
 内容的には、性暴力に1章を割き、かつ、セクシュアル・マイノリティについても章を設けているところなどが、「教科書」にはあまり見られないところ。インターセックストランスジェンダーなどにふれているテキストは最近では多くなったけど、扱い方は明らかに違う。多くの場合これらは、「多様性」を説明するための「事例」であることが多いが*2、本書ではきちんと章立てがされて、インターセックスホモセクシュアルトランスジェンダーなどについて、現状や課題がきちんと整理されて提供されている。なんといっても、第6章「多様な性の世界」は、本書でいちばん分量がある章になっているのだ。
 全体としても、よくこれだけ多くの情報を詰め込んだ、という感がある。感服。
 もっとも、文章はやはりそれなりに「硬い」。これはしょうがないだろう。かみくだこうとするとどうしても冗長になる。シンプルさとのかねあいだから。
 たとえば、短大・大学の授業(講義・演習)のメインテキストとしては使いにくい*3かもしれないが、簡易データブックやキーワード集として授業で援用するには便利だと思う。あるいは高校での副読本や通勤時に気軽に読む真面目な本としてもよいのでは。

■著者サイト

 (海老原暁子さんのサイトは、勤務先の教員紹介のページしか見つかりませんでした。)

*1:そりはちょっとなー。

*2:本書でも、加藤が担当した序章で、知識としても登場している。

*3:最も初期に出版された『ジェンダー社会学』(江原由美子ほか、新曜社、1989年)も、断片的で使いにくいという声をよく聞いた。本書ではさらに知識が細分化されているので、そういう印象をより強く受けるかも知れない。もっとも、わたしはけっこうこういうのを使うのが好きなのだが。