読了

夢の書(上)

夢の書(上)

夢の書(下)

夢の書(下)

 ファンタジーケルトやその他のヨーロッパ、中国などの神話を参照することがある。そのために、作品世界となる舞台が地理的に限定されることもある。
 だがメリングのこの作品では、歴史の中で進行してきたグローバリゼーション(必ずしも現代的なものとばかりはいえない)を踏まえて、さまざまな地域の結びつきによる新たな神話世界の形成が示される。大航海時代以前のヨーロッパ人の新大陸到達、ヨーロッパからアメリカ大陸への移住、中国やその他のアジア地域からのヨーロッパ・アメリカ大陸への移民(そういえばアフリカ系の人々はこの作品の中では影が薄いか)。そういった〈ひと〉の流れとともに、妖精たちもまた世界各地へ移り住んでいき、新しい土地との結びつきが生まれる。作中の「夢の書」は、まさにこうしたテーマを象徴的に示したものだ。
 『妖精王の月』『夏の王』『光をはこぶ娘』という先行する諸作品の登場人物をたくみに配置しつつ、メリングは複数の神話世界の住民たちの融合と、新しい土地や人との間の結びつきの形成を物語にまとめあげた。上下二巻という厚みは、これだけの内容を伝えるためには必要不可欠なものであり、いたずらに話を引き伸ばすためのものではないということが、読み終えて本をとじればよくわかるだろう。