読了・『葛の葉抄』

 江戸中期の町育ちの女性の生活を活写した連作長編。工藤あや子(只野真葛)には、若い頃の家や江戸の思い出話をつづった『むかしばなし』という随想集があり、若い頃のあや子のストーリーにはその中の記述が織り込まれているとおぼしい。
 あや子の父・工藤平助(『赤蝦夷風説考』の著者)は伊達家の藩医を勤めており、のちにあや子も伊達家の家臣である只野行義と結婚し、「みちのく」へ下ることになる。また、妹のしづ子はやはり江戸で医師をしていた雨森家(元同僚の祖先にあたる)へ嫁いでいる――など、個人的にも興味深いエピソードがちりばめられており、楽しく読むことができた。

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