読了

 ファンタジーにおける「空想的なもの」は、象徴秩序の〈外〉からくるものであったり、あるいは別の象徴秩序およびそれと現実の象徴秩序とのズレであったりする。フーコー=ドゥルーズのことばを借りるならば、後者は、現在とはことなる別の地層の知savoirを展開してみせることといってもよい。
 フーコーは知の地層とは、〈言表可能なもの〉と〈見えるもの〉から構成されるとした。「ことば」と「もの」である。たとえばルイス・キャロルのアリス二作では、さまざまなことば遊び、異なった論理(当然それは言語によって提供される)と、細密な挿絵で描かれた異世界の住民たちが、「空想的なもの」として立ち現れることになる。
 ハイ・ファンタジー(ロー・ファンタジーでも同じだと思われるが)における魔法が、呪文やことばのトリック/レトリックをともなうのも、まさに〈言表可能なもの〉として、現実とは異なる世界の作動原理を言語によって表現するための必然である。魔法は呪文を介して、あるいは呪文そのものとして、世界に対して〈嘘をつく〉。そこに存在しているものをゆがめ、たわめ、拡大/縮小し、新しいものを生みだし、消滅させる。魔法=〈嘘をつく〉とは、そこにあるものとは違う論理を世界に重ね、そしてそちらを〈真実〉にしてしまうことなのだ。
 〈ソルトレージュ(ひとつめの嘘)〉とはしたがって、ファンタジーにおける魔法という存在のあり方を、きわめて正統に表現したものだといえる。ライア・パージュリーが〈嘘つき(ライア liar)〉という名を持つのもそのためである。姉は弟のために、〈ひとつめの嘘〉を魔法使いから借りて、〈嘘をつく〉。登場人物も〈嘘〉をめぐって策をたくらむ。「嘘はついてないからね。さっきは聞かれなかったから、黙ってただけさ」(第1巻、279ページ)。この物語の魔法使いたちのあるものは、〈嘘〉をつくことができない。それはすでに、〈魔法〉というかたちで〈嘘〉をつきまくっているからではないか。

 そして作者も、〈嘘〉をつく。語らないこと、違った形で語ること。物語をたわめ、そして解放すること。第1巻から第2巻へ、そしてさらにその先へとストーリーが展開されていく中で、その〈魔法〉はいかんなく力を発揮する。

(126)(127)

■追加

運命の子―グイン・サーガ〈129〉 (ハヤカワ文庫JA)

運命の子―グイン・サーガ〈129〉 (ハヤカワ文庫JA)

(128)(129)

■再追加

付喪堂骨董店〈6〉―“不思議”取り扱います (電撃文庫)

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聖剣の刀鍛冶(ブラックスミス)〈4〉 (MF文庫J)

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関係する女 所有する男 (講談社現代新書)

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(130)-(132)

■再々追加

聖剣の刀鍛冶(ブラックスミス) 5 (MF文庫J)

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聖剣の刀鍛冶(ブラックスミス) 6 (MF文庫J)

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聖剣の刀鍛冶(ブラックスミス)〈7〉 (MF文庫J)

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猛スピードで母は (文春文庫)

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(133)-(138)

※念のために申し上げますが、これは数日分の記録です。