「両性の合意」への蛇足

 なんだか↑のコメント欄がにぎわったので、調子に乗って続けてみます。


 あるとき、某市役所の社会教育担当部局から、「新婚さんのための市民講座」(仮称)で話をしてくれないか、という依頼が来ました。
 「……なんですかそれ。」
 「新しく結婚する・したご夫婦向けの教養講座なんですが。」
 小心者のわたしは、ここで「わたしって現在の結婚制度に、反対とはいわないまでも、批判的なんですが。」とストレートには口にできず。
 「あの、わたしよく『結婚は両性の合意*1によるものだから、合意がなくなったらやめていいんだよ』と口走っちゃうんですけど、かまいませんか。」
 「……すいません、もう一度お願いします。」
 担当者泣かせなわたし。繰り返し根気よく説明しました。
 しばらく電話口で絶句していた相手は、ややあってこうおっしゃいました。
 「わかりました。検討させていただきます。」
 やれやれこれで助かった。もう電話はかかってくるまい。ふっ。
 浅はかなわたしはそう胸をなで下ろしていたのです。だがしかし。


 数日の後。
 「先日お電話した××です。」
 「はい。なにか。」
 「あの、その『両性の合意』の件ですが。」
 「はい?」
 「お話になっていただいてかまいません。責任は取らせていただきます。」
 ……なにやら悲愴な決意をなさっているかのような口ぶり。


 あわてたのはこっちです。どうしよう。
 もちろん相手の方も別にこちらを困らせようとかそういうことは一切なく。(当たり前だ。)
 もう一度根気よく意思疎通をしあって。
 とにかく、「受講者の方のためになる話をする。その一環として『両性の合意』の話も理解を得られるように解説付きで述べる。」ということになりました。


 担当者の方の熱意に負けました。でも。
 ……あれ。
 最初「口走っちゃうかも」だったものが、いつの間にか「(絶対)話す」ことになってしまっています。
 身から出たさび。たぶんこういうのでしょう。


 ちなみに、受講希望者はゼロだったことを申し添えます。
念のために申し上げますが、わたしはあくまでも連続講座のうちの一回だけを担当する予定でした。ほかにも内容の企画はいろいろあったようです。だから受講者がいなかったのは、わたしのせいではありません。少なくともわたしだけのせいではありません。ええほんと。ほんとだって。

■付記

 さらにその後のことですが。
 また別な市町村から「新婚カップルをはげます会」(仮称)でご講演下さい、という依頼を受けたこともあります。
 その時も、「両性の合意」話、していいですか?と尋ねたのですが。
 なんだかご理解いただけなかったようです。……当たり前ですね。


 つーか、そんなところに呼ばないでください。>市町村担当者の皆さま*2

■付記・2

 なお、「合意がなくなればやめてしまうような状態で、ずっと長い間夫婦でいる人たちは、きっとほんとに素敵なご夫婦なんですよ」という落としどころはちゃんと用意されております。

*1:もちろんここで両性という言葉には、当事者という意味合いを強く持たせています。わたしとしては同性婚を否定しているわけではないですし、憲法24条の記述が表面上はそれに抵触することにも同意します。でも文面にはそう書いてあるので、こう言わせて下さい。[予防線]

*2:申し添えますが、わたしも自分が非一般的に非常識なことを口にしていることはわきまえております。だから、そんなやつに声をかけるような非常識な企画をたてるのはやめましょう、ぜひ。