「男社会で働く」

 毎日新聞理系白書」担当記者のブログ。ときどき面白い。
 今回はコメント欄がにぎわしい。興味深かったのは、「(男女平等の)最右翼と言われている国」*1で研究生活を送っている男性のもの。税金などでお金が確かにかかるし、男性も家事育児で時間を取られる。しかし、「不思議なことに日本の企業の研究所で働いていた時の半分の時間しか職場にいないのに、論文という意味でのアウトプットは倍になっています。」という。「男女平等にすれば生産性が上がる」ということではなく、研究環境の整備などの問題だとは思うけど。
 一方で、「なんだかなあ」もいくつかある。
 「個人の周囲を見回しただけで一般化するな」とか「統計的事実に基づいて話をしろ」というのが、「なんだかなあ」系にかなり共通する意見のようだ。たしかに今回、元村有希子さん(ブログの書き手)の書き方はそうなっているが、彼女や彼女が引用している元コメント、あるいは記事に賛同するコメントが立脚する「個人的印象」は、別に統計的事実と乖離しているわけではない。だからこそ「なんだかなあ」と思うわけ。
 元村さんも当然知っている(細かい数字まで記憶しているかどうかは別)だろうデータをあげておく。たとえば、こんなデータがある。

性別 仕事 家事 育児
女性 3.7 3.8 1.9 9.4
男性 7.7 0.4 0.4 8.5

 6歳未満の子どもがいる有配偶男女の労働時間内訳(2001年)である。データソースは社会生活基本調査(総務省)。男性は全体平均*2、女性は有業者の平均である。単位は時間、一日あたりの数字。(平均だけで分散がわからないのが残念。(笑))
 国際的にもこれはかなりバランスが悪いことがわかっているが、単純に上にあげた数値だけを比べても男女でかなりの違いがある。
 コメントの中に「男性は家事ができないなんていったいどういう統計なんですか? 少なくとも私は一人暮らしが長いから、家事全般なんでもできますよ。」というのがあったが、問題は、1)「できる」かどうかではなく「する」かどうか、2)さらに、一人でいるときだけでなく、女性と共同生活をしていても「する」かどうか、である。少なくとも上記のデータからはその雰囲気すらうかがえない。
 また、科学/技術の問題とジェンダーの問題は、切っても切れない関係にある。というか、これこそあちらのブログの基本姿勢である「理系と文系の垣根を越える」という線に沿ったテーマだろう。以前も触れたが、この問題については、EUのETANレポートなどがすでに詳しく扱っているので参照してほしい。(http://www.cordis.lu/etan/src/document.htm
 ETANレポートでの主張はもちろん、社会的・歴史的な文脈を考慮したものだ。まずは単純な公平性の問題があるし、人口減少下で若手研究者が減る中、女性のこの分野への参入が少なければやっていけないということもあるし、理科系の高等教育を受ける女性が年々増える中で職業機会が与えられないのは教育の効率性の面でも問題がある。
 実際EUでの統計データを見てみると、理科系の学部学生の男女比は女性の方が多い国もあるのに、ドクターコースに進むとその割合はだいたい逆転しており、大学での研究職になると男性のほうがもっぱら多くなる(もっとも企業等の研究職までトータルで考えるべきだろうが)。さらに高い職階になればなるほど男性の比率は高まる。Scissors Diagramというらしい。(ETANレポート、p.13。)
 ということで、「文系・理系以外の話は不適切」ってこともないし、「研究者になるのに男女差はない」ってこともないようだ。ただ、もう少ししっかりしたかたちで議論をする必要はある。それはぜひ、新聞本体の記事でやっていただきたいと思う。

■補足

 http://d.hatena.ne.jp/june_t/20051126/p7 に続きを書いているので、特にトラバ先からリンクで飛んできた方は、こちらもどうぞ。

*1:オーストラリア。

*2:というのもいかがなものかとは思う。せめて有業者平均にしたらどうだろう。