男社会で働く・もっと続き

 http://d.hatena.ne.jp/june_t/20051121/p2 の続きで、「妻がどう働いていても(働いていなくても)男性の家事・育児時間はほとんど変わらない」ということを、データに基づいて述べておく。

 というのも、なんだか反論らしきトラバがきたからなのだが。

今、お題はそうではなくて、「男性と同様に働いて、かつ、家事+育児まで負担が女に回る」って話でしょ?
だったら、女性の仕事時間が(男性正社員の定時勤務時間の1割引として)6時間以上である方々を選んで持ってこないと意味無いのでは?

 ……だそうである。
 では、同じ2001年の社会生活基本調査のデータを用いて、妻の就労時間別に集計したデータがあるので、これをあげておこう。夫はすべて有業者、夫婦と子ども世帯の場合である。


てか、反論したいなら、「フルタイム労働してる女性の夫はこれだけ家事とか育児とかしてる」っていうデータを自分で出すべきだと思うのだがどうだろう。

○妻=専業主婦
 夫:仕事……7時間14分
   家事等……38分
 妻:仕事……2分
   家事等……7時間42分

○妻=パートタイム(就業が週に35時間未満)
 夫:仕事……7時間19分
   家事等……26分
 妻:仕事……3時間17分
   家事等……5時間8分

○妻=フルタイム(週に35時間以上)
 夫:仕事……7時間14分
   家事等……42分
 妻:仕事……5時間36分
   家事等……3時間53分

 妻が専業主婦なら、夫は家事をあまりしなくてもしょうがないのかもしれない。(育児はまた別かも知れない。子どもとふれあうことは親の権利だし。)ただ見ての通り、妻が働いている場合でも実は男性の家事・育児時間はほとんど変わりがない。さらに、妻がどう働いていても男性の家事・育児時間はほとんど変わらない。もっとはっきり書くと、ほとんど増えない。仕事に費やされる時間も変わらない。変わるのはどこかというと、女性が働けば、そして長く働くほどに、妻の総労働時間が長くなり、配分が変わるというところだけなのだ。
 まあ、要はこういう傾向があることはわかっていたので、あまりそのへん気にしないで前回はデータを出したのだが。はっきり最初から書けばよかったでしょうか。そうですね。
 ただ、このデータ集計は前回と異なって子どもの年齢を問うていないので注意(要は自分でデータ集計しないで、できあいのものを引っぱってきているからだが)。データからすると、子どもが小さければ、あと10〜20分ぐらいは男性の家事・育児時間は長くなるのではないだろうか。(もっとも、「五十歩百歩」という声が飛んできそうではある。)
 ちなみにデータだけ見た範囲でいちばん家事をしない男性は、妻=パートタイムである。もちろん、いろいろと理由があって平均がこうなっているのだと思うので、妻がパートで働いている夫をそれだけで「家事をしない(したくない)男」とかそしるようなことがあってはならないと思う。
 少し補足すると、そもそもパートで働くのはなぜなのか、ということがある。そこには、フルタイムで働いていたのでは家事・育児をこなせない、という判断があることが多いのだ。これについても調査があるが、面倒なのでいちいちあげない。『女性労働白書』の2002年度版などを参照されたい。30代でだいたい4割近い女性が、育児等のために非正規雇用を選ばざるを得なかったと答えている。たしかネットでは要約しか読めないが、グラフはあったと思う。

 さらについでに、前回あげたデータを、欧米各国のデータとあわせて見てもらおう。(やっぱ全部のっけておくべきでした。ちと横着したのよね。)

 まずは5歳未満(日本は6歳未満)の子どもがいる有配偶の男性の総労働時間および内訳(単位・時間、一日あたり平均、次も同じ)。諸外国はOECD Employment Outlook 2001のデータを用いているので、日本とはやや基準が異なる。

国(年次) 労働 家事 育児
アメリカ(1995) 6.2 2.0 0.6 8.8
スウェーデン(1991) 6.4 2.5 1.2 10.1
ドイツ(1992) 6.1 2.5 1.0 9.6
イギリス(1995) 6.3 1.7 1.5 9.5
日本(2001) 7.7 0.4 0.4 8.5

 次に5歳未満(日本は6歳未満)の子どもがいる有配偶の女性の総労働時間および内訳。日本は有業者平均、ほかはフルタイム労働者の平均である。

国(年次) 労働 家事 育児
アメリカ(1995) 4.9 3.3 1.0 9.2
スウェーデン(1991) 3.9 3.9 2.2 10.0
ドイツ(1992) 4.1 4.2 2.1 10.4
イギリス(1995) 3.5 5.4 2.0 10.9
日本(2001) 3.5 3.8 1.9 9.4

 まあこんな感じ。これ以上あまり言を重ねる必要はないかも知れないが、ひとことだけ言い添えれば、これはなにも個人の努力だけの問題ではないということだ。企業や国の対応も当然問われるはず。
 見るかぎり、一番働いているのはイギリスのフルタイム労働をしている女性、ということである。「働き蜂」とかいわれる日本の男性よりずっと総労働時間は長いようだ。つーか、男性の中で日本の男性がいちばんラクをしているのか、これって。まあ単純に総労働時間の長さだけではあるけど。

 さて、これ以上何かいいたいことがある人は、自分でデータを出してね。アジア諸国のデータとか出てくるといいなあ。

■追記

 もう1つトラバが来たので追記します。久しぶりだなこういうの。(笑)
 まあ基本的に話の中身は何度も――というか毎年度――繰り返しているものなのですが。
 さてさて。

直前のエントリでは分散が示されていないことを気にされてましたけど、あれは忘れられたんでしょうか?

 分散は気になりますが、データとして示されていないので、あきらめています。ここで文句をいっていてもしょうがないし。文句いって出てくるならもっといいますよ。(笑)
 ただし、分散ではありませんが、データの散らばりについての傍証となるような知識はあります。(後述します。)

日本の男性の平均労働時間が7.7時間ってことに疑問は感じられないのですか? 毎日定時で終わるお役所仕事な方なのでしょうか?

 ちょっとおっしゃることがわかりにくいのですが、平日7.7時間しか男性が働いていないとこのデータを理解していらっしゃるなら、それは大きな間違いです。これは休日を含めての平均ですので。家事・育児もです。
 さてそこで、一日の平均である7.7時間に7をかけると約54時間になりますから、「所定労働時間(週40時間)よりずいぶん残業してる」ということになるわけです。週休2日なら1日あたり11時間近い労働時間になります。ただ、6歳未満の子どもがいる年齢の男性というのは30代前半ぐらいだと思うのですが、この年代の男性はかなり労働時間が長いのです。ある自治体の調査では、週60時間以上の労働をしていると答えた割合が、30代で3割近くになりました。ですから、平均がこのぐらいになっても、それほど妙とは感じません。(たいへんだなあとは思いますが。)
 なお、先ほど述べたように分散という形でのデータは与えられていないのですが、こういうよそでやった調査の集計データを知っていたり、場合によっては生データを自分でいじっているので、わたし個人としてはおおよその分布はわかっています。

抗議についての考え方は、僕自身日本的な文化内では殆ど過ごしていないので、見方が違う点は認めます。僕は、一貫して、「抗議は文句がある方がすべき。そのくらい分かっていいだろうというのは通用しない。」という環境で過ごしていますので。

 「抗議して男の態度が改まるものならしている」というのは、全く抗議していないことを意味しません。「そのぐらいわかっていていいだろう」ということではさらにありません。が、まあそれはともかく、「妻が夫に要求する」ことと男性の家事・育児負担度に明確な相関関係がないことは、調査により明らかになっています。「結婚前の話し合い」も家事負担には影響がないようです。育時連による以下の調査結果をご覧下さい。

 まとめの表をすこし簡略化して示します。表組みが見にくくてすいません。(報告書ではこのあとまだ重回帰分析とかするんですけどね。)

関係あり 妻の就労形態を通じて影響 関係が見られない
妻の就労形態
妻の収入
夫と妻の収入格差
妻の就労時間
夫の就労時間(育児のみ)
妻の性別役割規範(家事のみ)
妻と夫の年齢差
妻の職場規模
夫の性別役割規範
結婚前の話し合い(育児のみ)
妻の学歴(家事のみ)
子どもの有無

夫の収入
夫の職場規模
妻の要求
夫の学歴
妻の年齢・夫の年齢
子どもの人数
一番下の子の年齢(家事のみ)
生家の家事担当者

 次。

ただね、貴女が指摘されているような女性の労働する権利を勝ち取っている国々では、僕の考え方がグローバルスタンダードですよ。ここを改めないから、勝ち取れないんだとはお考えになりませんか?

 おっしゃるとおり、要求を出すことが権利を勝ち取る最良の手段であることには間違いありません。しかしそれは、家庭の中で個々の女性が自分の配偶者なりに要求を出すというものだけであるとは限りません。というか、個別に「抗議」や「要求」をしていただけでは効果が上がらないとさえ、上のことからするといえそうです。より社会的な働きかけを行う運動として――もっと強く――主張せよ、ということならわかりますし、わたしも同意できます。ですが、あなたのいうような文脈で、「グローバル・スタンダード」なるものを適用するのは、「権利を勝ち取っている国々」のこれまでの歴史からするといささか奇妙です。
 もっと言えば、わたしは農村部に位置するある自治体の首長が、「家庭で女性が男性に文句を言っていかねば男性は変わらないと思う」という発言をするのを聞いたことがあるのですが――というか、正確に言うと、「男性を変える方法は?」というわたしの質問に彼がそう答えたのですが――、あなたがいう「グローバル・スタンダード」な戦術は、きわめて「日本的」な方策であるともいえるのかも知れません。


付け加えると、もしそれでも個々の女性が配偶者等に「抗議」することだけで実効的な効果を上げられるというなら、そういう結果を具体的に――できれば単独の事例としてではなく――あげていただくといいのではないかと思います。あるいは、「こういった条件の下では抗議が有効であった」というかたちの事例報告でもいいかも。さらにいえば、「どう抗議したら効果があったか」という戦略も示していただけると、すごく建設的かつ実践的なご意見になるのではないでしょうか。

 ところで話は変わりますが、男性たちはなぜ企業や上司に「これでは家庭での責任が果たせない」と抗議しないのでしょうか。(上で計算したとおり、平日1日10時間以上働いているわけですよね。)というか、どうしてそこへ話がそもそもまったく向かわないのでしょうか。もっとも、先ほどの育時連の調査では、男性は忙しいから家事をしないのではないらしいのですが。

 あと、そうそう、女性の中で合意なんか必要ないでしょう。いろんな志向があって当然じゃないですか? ただ、他人の行動に対する寛容さというか、そういうものは必要だけど。(その意味での「合意」は必要ですし、まだ足りないですね。)むしろ、男性がもっと多様な意見(と行動)をもったほうがいいんじゃないでしょうか?