いちおうこれも買った

ポケットの中の野生―ポケモンと子ども (新潮文庫)

ポケットの中の野生―ポケモンと子ども (新潮文庫)

 文庫版解説は『ポケットモンスター』デザイナーの田尻氏が書いている。

しかしこの時期[註:1997年3月〜4月]を境にゲームとアニメのどちらか、あるいは両方の体験をしたかどうかで、物語のリアリティにズレが生じている。
(p.162)

 たしかに、わたしがこの本を読んだのは1998年で、ポケモンはすでにアニメ化され、カードゲームになり、外国での販売が始まるころであった。だから「ポケモンといえばピカチュウ」という印象も強い。最初読んだときにピカチュウの話が全然出てこなかったので、とまどった覚えもある。
 この本を買ったのは、その1年前に香山リカの『テレビゲームと癒し』を読んだ延長だった。岩波から出ている同じシリーズの1冊である。

テレビゲームと癒し (今ここに生きる子ども)

テレビゲームと癒し (今ここに生きる子ども)

 ただ読んでみた直接のきっかけは、98年の1月に福島から東京に向かう新幹線内でのできごとだった。殺人的に混んでほとんど身動きもできないような車内で、ずっと立ちづめで疲れていたのだろう、小学生ぐらいの男の子がわたしと同じ歳ぐらいの母親に向かってだだをこねていた。そのとき、見かねて何とかしようと思ったのだろう、そばに立っていた二十歳ぐらいのたぶん大学生と思われる男性が、その子の手にしていたゲームボーイに刺さっていたソフトのカセット(手にしていたカードだったかも)を見て、「ポケモンやるんだ?」と話しかけたのだ。すると男の子はそのとたんにころっと表情を変えて、相手とゲームの話に(かなりマニアックな内容だったので、何を話していたのかさっぱりわからなかったが)夢中になり、さっきまでの機嫌の悪さはどこかへいってしまった。そのときの男の子の変わりようが印象的で、ポケモンをあつかったこの本も読んでみようという気になったのだった。
 ポケモンビジネスは、2003年9月末までで、世界全体でおよそ10兆円だという。そういったまさにモンスター的なこのゲームの側面は、中沢新一のこの本にはまったく取り上げられていない。あるひとつのゲームの全体を論じるという点では、このことは致命的なことなのかも知れない。しかし、わたしが新幹線の車内で出会った男の子の、あの表情の変化を説明するには十分な内容だったと思う。

■追記

 いやもちろん、かなりあとの作になるまでゲームの主人公の性別は男だとか、アニメも男の子中心だとか、そもそものモチーフが男の子の遊びだとか、そういう批判もできるのでしょうけど、ここではやめときます。(って、書いてるけど。)