LOTR Movie

 「サウロンの目のデザインがあまりにもヴァギナ的すぎる『ロード・オブ・ザ・リング』三部作」

 こいつら[引用者註:指輪の仲間]はお姫様のかわりに、この中で唯一輪っか(指輪)を持っている(=「女の属性」を賦与されている)フロドを守っている。で、悪い奴らがこのフロドを狙うわけだが、指輪をめぐる闘争はまるでお姫様の貞操を狙っている悪党との戦いみたいな感じである。途中、フロドはアングマールの魔王に剣で刺し殺されかけるし、善良はなずのボロミアが故郷を心配するあまり指輪の魔力の魅入られてフロドを襲うのだが、この場面はデカいボロミアがちっちゃいフロドにのしかかって押し倒すというまるで強姦未遂のような表現になっている。(中略)
 で、お姫様化しているフロドに純粋な愛を注いでいるのが奉公人のサムなのだが、このサムとフロドのベタベタぶりは全くすんごいホモソーシャルである。旅の途中で指輪に魅入られたゴラムがくっついてきてフロドに取り入り始めると、サムとゴラムが痴話ゲンカみたいな争いを始めて、泥沼の三角関係の様相を呈する。で、結局はお姫様化したフロドとそれを純愛で守るサムが勝利するわけだが、この二人が頑張ったおかげで冥王サウロンの邪悪な火の目は破滅…するのはいいんだけど、この火の目のデザインがまあ授業で先生の言ったとおり、どう見てもヴァギナにそっくりである。指輪(何回も言うけど、輪っかである)は破壊され、サウロンの眼も雲散霧消しておしまい…ということで、このラストだけ見るとまあ男たちの愛が女属性に打ち勝ったということで、えらいミソジニー的な話である。

 長々と引用失礼。
 それはそうと、目だけになったサウロンを見た瞬間、タモリが描く絵を思い出したのはワタクシもです、すいません下品です。
 指輪の仲間がホモソーシャル(注意・ホモセクシュアルではない)なのはそのとおりで、これはみんな指摘することだと思います。だから腐女子の想像力を刺激していろいろなお話が作られるわけです(こっちはホモセクシュアルで、そしてさすがにみんなは想像しないらしい)。一度、「レゴラスオーランド・ブルーム)総受け」なるものを見かけて悶絶しかけた記憶が。
 ところでロレンスの中編に「狐」というのがあるんだけど、中産階級出身の小柄できゃしゃな女性(バンフォード)と、労働者階級のたくましい女性(マーチ)が一緒に農場をやってるところに男が闖入してきて、というお話。明示的には言及されないんだけど、富山太佳夫さんによると、どうもこれは二人の女性は同性愛関係にあるということらしい。当時こういう女性二人の組み合わせだと、中産階級の女性のほうが「ネコ」、労働者階級の女性のほうが「タチ」という記号があったとか。(講義を一度聴いただけの記憶なので、あいまい。)
 何が言いたいかというと、サムは下層階級の出で、訳本だと「おら、なんとかですだー」みたいなしゃべりかたになってたりする。他方、フロドは財産家の甥で、働いてるとも思えない「だんなさま」である。俳優も若いし。やっぱこれはスラッシュを狙ってるのか。1作目のラストとか、間近でサムと見つめ合いながら「おまえがいてくれてよかった」とかフロドがつぶやくんだけど!

■ここから少し自分にとって真面目な話(映画の話でなくなります)

 しかし、指輪が女性器だとすると、それを指にはめるというのは異性間性交ということになるのでしょうか。その時だけ遠く離れたサウロン(女性器みたいな)と向かい合うような描写になっているのは、サウロンはある種抽象的な女性性みたいなもので、それに対する(男性の)恐怖というのは去勢不安にも通じるものだとかいうことになるんだろうか?
 恐いけど、誘惑にかられてつい……ってことですね。「いとしいしと」だったな。うーむ。
 そうすると、指輪をはめると「引き延ばされて生きているような気がする」とか、「できるだけはめんほうがいい」みたいなのは、女性とセックスしすぎるとだめだよってことを暗に言ってるのか。あれか、古代ギリシャの(男性向け)養生術か!
 指輪を捨てに行くのは、指輪が作られた火山のところだけど、これが大文字の女性性(と見なされてる)みたいなサウロンのおひざもとで、やっぱ「わたしにかえりなさいー」ってことになるのかなあ。〈母〉(っぽいもん)なる混沌への回帰。でもその瞬間サウロンも消えてしまうのだけど。
 やっぱシュロブと同じで、負の女性性なのかな、ひとつの指輪って。親玉がサウロン。で、その負の部分をうまいことゴラムごと葬り去れた(彼自身はホビット族の負の側面)ことで、現実でもうまい具合にヘテロセクシュアルな関係に入っていけたのが、サム(ローズと結婚)であり、ファラミア(エオウィンと結婚)であり、アラゴルン(アルウェンと結婚)であると。ただし、独身者の人たち(ex. フロドやビルボ)はそのへんうまくいかなくて、心に傷を負って、灰色港から癒しを求めて旅立つわけだ。
 そうすると、やはり鍵はガラドリエルのような気がする。彼女はやはり指輪所持者で、その中ではたぶん唯一の女性で、小さき人であるホビットに対して肯定的な〈母性〉(みたいなもん)を発揮するふうに描かれているわけで。ここ、あとで再考。

■ついでに

 半裸のフロドをしばって、で思い出したけど、ガンダルフとサルマンってのもアレですよね。この場合、ガンさま(←誰)は指輪保持者(キアダンからエルフの指輪のナルヤをもらってる)だし、やっぱ受け?(をい
 相手(サルマン)がクリストファー・リーだというのも、けっこうねらってるのではと思わせるところです。二人の決闘って、恋人に浮気されてキィーー!みたいなところがあるし。おじいさん同士だけどね。

■追記(というか忘れてた)

この3人[引用者註:アルウェン、ガラドリエル、エオウィン]は善意の人々なのだが、揃いも揃っていわゆる「女らしい」お色気がなくて、セクシュアリティから切り離されて描かれている。

 というか、映画だとアラゴルンとアルウェンがベタベタしすぎです。あそこまでロマンティック・ラブ的な描写せんとあかんのか、えー、あかんのかー?と思いました。
 まあ原作は、単に描写がないだけなんだけどね。ただ、追補に二人の出会いとかが神話的に描かれていて、このあたりは、ヨーレンの『光と闇の姉妹』なんかと共通する手法でもあって、この方法によって、二人の関係を現代風なロマンティック・ラブと切り離すような作用を持っていたかな、と思います。まあ映画だとこういうのはすごく困難だと思う。
 なお、エオウィンは男装者なので、彼女の「色気」は鎧をまとって戦うシーンで発揮されるし、アルウェンの場合は馬で疾走するシーンがそれに相当すると思います。(透けてる衣装も十分アレですが。)