読了:『心脳問題』
おもしろかった。
以前ネットで、「哲学なんて、古いテキストをこねくりまわしているだけで、現実の問題にちっとも取り組もうとしないではないか」のようなことを言っていた人がいました。相手をしていたのはデカルトを専門にしていた人で、いろいろ反論はしていたのですが、説得力が全然なかった。
だけど、ここにこうして「反例」が提示されてみると、上の批判者の見ていた「哲学」が非常に狭い範囲のものであるということがわかります。哲学の(あるいは哲学を専門とする人たちの)関心の範囲というのは、決してそんな限られたものではないのだと。
もちろん、現実の問題を考える際にさまざまな過去のテクスト(プラトン、カント、メルロ=ポンティ、フッサール、ドゥルーズ、その他)は本書でも参照されますし、的確な参照のために著者たちがこれまで費やしてきた時間と労力は少なからぬものがあるわけです。また参照先のテクストに対しては、もちろんきちんとした態度がとられており、その「基礎」の上に現実問題へのアプローチが築かれているわけですが。
現代社会における「心脳問題」の構図を描き出そうという本書ですが、すぐれた「哲学入門」でもある、といえるのではないでしょうか。