「里親制度」を少子化対策に活用?
昨夜の電話での「翻訳ソフトで英語文献を訳す大学院生」の話*1にもびっくりしたけど、このニュースにも最初驚かされた。
via http://d.hatena.ne.jp/kmizusawa/20060224/p3
人口減に悩む福島県が、従来の「里親制度」を、人工妊娠中絶を減らし、出生率を高めるための施策として活用していく方針を決めた。新年度から新たに「里親コーディネーター」を配置し、出産を迷う妊婦らにも制度を紹介する。女性の「産む、産まない」の選択権が狭められないかなどの論議も予想されるが、同県は「中絶を考えている人に産んでもらい、社会で子育てを担いたい」としている。
里親制度は、虐待などで親との同居が難しくなった子どもを一般家庭で育てる仕組み。各都道府県が所管しているが、厚生労働省によると、出産前に制度を紹介するのは異例だ。
福島県によると、まず産婦人科医に依頼し、出産を迷う妊婦のうち希望者に里親制度など子育て支援策を紹介するパンフレットを配布。問い合わせに応じて児童相談所が詳しく説明し、出産後、実際に子育てが困難な場合には里親を紹介する。里親は、原則18歳まで育てる「養育里親」を想定している。
(以下略)
中絶希望者に里親案内の新制度 福島県が今春から
いちおう他の記事にもあたってみようと思ったのだが、共同通信配信の記事しかネットにはあがってないみたい。
福島県は24日までに、子育て支援策の一環として県の「里親制度」を産婦人科病院でも積極的にPRし、活用してもらう方針を決めた。県議会に提出している2006年度予算案で、前年度比約2000万円増の約7400万円を計上した。里親制度は、実の親による児童虐待などで養育が困難な場合、児童相談所の紹介で別の家庭で子どもを育ててもらう仕組み。県は「産む、産まないは本人の意思だが、望まない妊娠で中絶が不可能なケースもあり、制度を知らないまま親子が苦しんだり、虐待などが起こるのを防ぎたい」としている。
産婦人科でも里親制度PR
施策の内容を乏しい情報から検討してみたい。里親制度自体はもちろん、都道府県の管轄で以前からおこなわれていることだ。「出産後、実際に子育てが困難な場合には里親を紹介」ということだから、基本的に出産後すぐ実親から里親へ子どもが渡されるわけではない、ということ。むしろ、養育困難な家族の子どもをひきとって育てるという、制度の主旨に沿うような形での運用が中心なのではないだろうか。ただし、現状ではこのような選択肢が存在することは、あまり一般には知られていない。そこで出産前からPRを、ということなのかもしれない。その結果として中絶が減ったり、出生率が上昇したりすることもあるだろうということではないだろうか。(これを目的にしてしまうこと自体はどうかと思うが。)
あと、最初忘れていたが、実際に制度を必要としている人に対する相談業務の拡充と、コーディネートにもより力点を置くということなのだろう。なんだかこのあたりは人員を手当するために、行政が「少子化」ということを言い訳として利用しているような気がする。もっとも、中身はしょぼいものだが。(予算2,000万円で8人嘱託職員などをやとうということは、ひとりあたり年間250万円。いや、PRの費用もあるだろうから、もっとずっと少ないか。)
まあ、はてなブックマークのコメントにあったような「産んだらポイ」というのとはかなり違うはずだ。というか、皆さん里親制度について少しぐらい調べてからコメントしてください。(笑)
しかし今回の施策がうまく機能するかには、疑問もつきない。記事で妊娠中絶率の数値が引き合いに出されている10代の女性、特に高校生の場合などだと、そもそも出産を選択すること自体に困難がつきまとう。また、「子どもを育てるのは実の親であるべき」という近代以降強くなった意識*2は今も根強いが、既存の里親制度の活用が、即「社会で子育てを担う」ということになるだろうか。
それからkmizusawaさんが書いていたように、「事情が許せば本当は産みたい」という人はいるだろうと思う。でも、そういう人はむしろ自分で育てたいという気持ちが強い人なんじゃないだろうか。きちんと条件を整えた上で産みたいと思っているんでは。だから、やってみてだめだったら他人に預ける、という方向には気持ちが動かないんじゃないかと思うのだけど。
あと、産婦人科でのPRの仕方とかにもよるだろうが、この施策が「産め圧力」の強化にならないかという心配もある。朝日の記事の中にある「女性の『産む、産まない』の選択権が狭められないかなどの論議も予想される」というのは、そのあたりの懸念にふれたものだろう。実際、妊娠中絶手術を受けるために前日から入院したことがあるという若い女性から聞いた話だけど、やはりまだ若いナースから「なんでおろすんですか」と責めるように言われてつらい思いをした、とか。もちろんすべての医療機関でそういう言動が一般的だということではない。だが、結果的にどういう選択をするにせよ、医療従事者の言動は圧力に変わりやすいので注意が必要だと思うということだ。
ということで、最初思ったほど「これはひどい」施策ではないような気もするが、有効性とか目的にはきわめて懐疑的、というまとめで。
■追記
くりかえしておくが、あまり感情的に受け取るのはどうかと思う、少なくとも「産んだらポイ」という制度ではないし、「里子に出すつもりで産む」ことを奨めるような制度でもないだろう。そうなりかねない危険があるということは確かだが。わたしはこの施策を目的とされているものと合わせて考えて肯定的に評価しないし、支持もしないが、同時に誤解もしたくないと思っている。