読書メモ
- 作者: 諫山創
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/03/17
- メディア: コミック
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Kindle版で購入。(いちおう既刊は全部読んだ。)
アニメは今のところとびとびで。シリーズ終了したら、まとめて観るつもり。
ところで、金田淳子さんのツイートを中心にまとめられた、「『進撃の巨人』のジェンダー観は小学生止まり。故に心地良い。」というまとめがあります。ちょっとこれをネタにして、以下、作品について述べてみたいと思います。Twitterで連ツイしたものがもとですが、かなり手を入れています。(2013/09/01、2014/04/10 revised)*1
『進撃の巨人』、巨人やそのほかの設定は秀逸だし、これほどまでにアニメ化して成功だった作品もないのではないだろうかと思う。特に、あのアクションシーン(立体機動の3D CGグルグル)。これだけでも観る価値はある。マニアはさらに主題歌にも食らいつくはず。(一般受けしない、ということではありません。)原作はかなり最初のほう、絵が残念なのだけど、そのあたりも当然補正されており、楽しめる作品であることは間違いない。
さて、金田淳子さんのツイート、最初のものはこちら。
進撃はジェンダー観が小学生どまりで、基本的に男女の能力がほぼ平等、軍隊でのセクハラも強姦もなく、さらに再生産労働についての視点が非常に弱くてあいまいにされてるところが、逆に、ある種の読者にとって心地よい世界になってると思いますねー
ここで書かれていることは、1)戦闘能力がほぼ平等である、ということだけでなく、2)セクシュアリティの面においても、(男性から女性への)セクシュアル・ハラスメントやレイプが描かれていない(存在しないのかフレームアウトされているのか)ことで、男女の関係が平等であるように描かれており、3)かつ、労働の面では、「生産労働=男性/再生産労働=女性」のようなジェンダー分業が、これはおそらくフレームアウトされており、それによってさらに平等感が増している、ということである。これが「小学生レベル」かどうかはともかくとして、短いツイートの中にいろんな要素がつめこまれていて、秀逸な評であるといえる。
ただし、実際には平等に描き切れていない、というのがわたしとしての考え。おそらく意識せず、作者は現実のジェンダー関係を作品に反映させている。
金田さんは「基本的に男女の能力がほぼ平等」というけど、それは最前線の兵士、それも新兵や下位の階級の兵士の、総合的な身体能力の話に限られていて、よく見ると、調査兵団等の隊長クラス、あるいは訓練所の教官などは、ほとんど登場するのは男性である。分隊長やアシスタントぐらいだと、女性(らしき人物)もいるのだが。
宗教団体もそうだし、貴族社会もどうやら、アニメをちらっと観た限りでは、権力を握っているのは男性中心のようだ。なお、13巻のラスト近くのコマでも、王冠をかたわらのテーブルの上に置いた王らしき人物の周辺にいるのは、男性だけであった。つまり、既知社会の中枢は男性が占めているということであろう。
なお、こういうところは『新世紀エヴァンゲリオン』も同じである。最前線のパイロットは女性が多く、作戦指揮官も女性、しかしネルフのトップ2人は男性で、その上位の組織であるゼーレも、男性だけで構成されているように描かれていた。これはGainaxでは、『トップをねらえ!』以来の伝統ともいえる。こちらの作品でも、最前線に出る兵士は男女半々らしいし、主人公もエースパイロットもライバルも女性だが、艦長や艦隊司令部はほとんど男性、作戦会議のシーンでは「紅一点」だった。末端の実戦部隊はともかく、組織のトップは男性が占める、というのは、女性管理職が少ない日本の作品だからなのか。
この作品でも、女性キャラは、斎藤環のいう「戦闘美少女」なのだと思う。しかし、彼女たちの身体的パフォーマンスが強調される一方、作中での指揮能力やリーダーシップは男性のものとして描かれている、ということだ。(一般的な「男らしさ」から若干距離のあるアルミンの描かれ方はやや興味深いが、斎藤美奈子の『紅一点論』でいう「知将」のバリエーションのようにも感じる。)
そのほか、モブキャラの性比とかどうなのか、と思って数えてみたりしたけど、一般市民はさすがに女性も描かれているようす。たとえば、1巻冒頭の、調査兵団の帰還を見つめるシーンなど。ただし、エレンの審問シーン(5巻)だと、同期生以外圧倒的に女性が少ない。意識してこうしているのかはわからない。
*1:なお、ここに書いたようなことを、2014/04/09の講義でもしゃべってみた。